宮内・溝川(1次)集団訴訟(原告46人)第8回口頭弁論、報告・交流会の報告
宮内・溝川(1次)集団訴訟(原告46人)第8回口頭弁論、報告・交流会の報告
2018年5月10日 齋藤 紀彦
I. 第8回口頭弁論
(1)5月7日(月)11時~11時30分
(2)奈良地裁101大法廷、裁判官:島岡大雄氏(前任の木太伸広氏から交代)
(3)原告弁護団:佐藤真理、白井啓太郎、安藤昌司、辰巳創史、星 雄介、山下悠太、今治修平の各弁護士
(4)被告NHK弁護団 2名
(5)原告席着席者3名、傍聴者60名、他府県からの傍聴参加:大阪、京都、兵庫、滋賀
(6)担当裁判官の交代により弁論の更新手続きが行われた。(裁判官が、従前の弁論の結果を陳述することを、原告被告代理人双方に確認する。)
(7)原告準備書面(十一)、原告準備書面(十二)確認を確認。
(8)原告弁護団星弁護士意見陳述 (意見陳述書、準備書面(十一))
- 最高裁平成29年12月判決が、NHKの公共放送としての重要性を根拠に受信契約締結の強制を認めたことは、NHKの公共的役割をこれまで以上に厳しく監視されるべきであると解される。
- NHKが公共的役割に見合った放送をしているかどうかを判断・評価することが重要である。
- NHKが公共放送にふさわしい放送を行う義務を果たしていないと考えられる場合には、受信契約者はその義務違反行為について意見を述べる機会が与えられ、その意見に対する判断・評価が適正な手続きで行われる必要がある。
- 最高裁判決では、受信料の「特殊な負担金」論は排斥された。
- 「公共放送にふさわしい放送」がなされているか否かの判断・評価は裁判所以外には考えられず、裁判所が行うべきである。
(9)原告弁護団長佐藤弁護士意見陳述
- 弁論の更新に当たり、本件訴訟のこれまでの経過の概要を述べた。
- 本件訴訟の以下の主要争点を説明した。① 放送受信契約と放送受信料の法的性格
原告は、放送受信契約は継続的な有償総務契約であると主張してきた。
NHKは、TV受信機設置者は視聴するかどうかにかかわらず、支払うべき「特赦な負担金」であると主張。② 放送法4条は、憲法21条(国民知る権利、報道の自由)の観点から、国民との関係では法的義務であると原告は主張。被告は倫理規定と主張。
③ NHKが、放送法4条・国内番組基準を違反した放送を継続した場合、契約者は受信料支払いを拒んだり、損害賠償請求をすることができるかどうか。
受信契約書には、「放送法・受信規約により受信契約を締結します」と書かれており、NHKがこの項目を契約者に示し、契約者は契約の合意内容に放送法順守義務が含まれていると、原告は主張している。また、改正民法548条によっても、NHKは定型約款の中の個別条項である放送法第4条などの遵守義務を負っているというべきである。④ NHKの放送法違反事例は、これまで準備書面でいくつか例示してきた。
⑤ 原告が、公正な放送を享受する権利が侵害され、精神的苦痛を得ているか。
⑥ 被告は、本件訴訟は争訟に当たらない、確認の利益がないと主張。
⑦ 昨年12月の最高裁判決では、TV設置者は受信契約、受信料支払いを義務付け、その際にはNHKと視聴者の合意が必要であるとした。受信料=特殊な負担金説は否定された。しかし公共放送にふさわしい放送の内容には踏み込んでいない。受信契約、受信料支払い義務は、憲法21条、13条、29条に違反するものではないと判示した。
この判決にマスコミ、有識者はNHKに厳しい批判・注文を付けている。例えば、醍醐聡東大名誉教授は「NHKは受信料で制作する番組が、国民の知る権利を充足する内容になっているかどうか、不断に検証する責務を負わされる」と指摘している。 - まとめ
この訴訟は、国民の知る権利、民主主義の発展に寄与する公共放送の在り方を真正面かを問う歴史的な裁判で、国内で初めてのものである。最高裁判決による、TV設置者の受信契約、受信料支払い義務付けは、「契約締結の自由」という私法の大原則の例外であり、また受信料支払いという経済的負担をもたらすものであるから、憲法29条(財産権)を制約するものである。にもかかわらず受信料制度が正当化されうるのは、公共放送と民間放送という2系列の放送事業システムの下で、公共放送を担うNHKを民主的かつ多元的な基盤に基づきつつ自律的に運営される事業体として、その独立性、中立性、公共性を確保することが国民の知る権利を実質的に充足するという放送法の目的にかなう合理性を有するものであるからである。そうであれば、NHKは受信料制度を正当化しえないような独立性、中立性、公共性を欠いた内容の放送をしない義務を負うと解すべきである。放送法4条1項、国内番組基準は、NHKが放送する番組の内容が独立性、中立性、公共性を欠いた放送をしているかどうかを判断する基準を具体化したものと見るべきである。
共同通信の原 真編集委員は、「受信料不払いに罰則がないのはなぜか?」と問題提起をして、「視聴者は受信料でNHKを支えているが直接的には運営に関与できない。そこで受信料不払いという異議申し立ての余地を残して、NHKの健全性を保つ制度であると考えられる。」と論評している。
最後に、NHKには誠実な対応を求めたい。NHKの行動指針には「視聴者のみなさまの信頼を大切にします」、「お問い合わせには、迅速、ていねいに答えます」などと記載されている。しかしながら、この裁判で、NHK代理人は詳細な主張・反論を避け原告に誠実に向き合おうとしていない。
(10)今後の進行協議
- 裁判官から、3つの裁判を併合する方向で進めることが表明された。合議体にするかどうかはこれから検討する。
- 原告側は、これまで放送法4条をメインに主張してきたが、今後1条(放送法の目的)、3条(放送番組編成の自由)、15条(日本放送協会の目的)、81条(放送番組の編集等)に関連して主張を補充する。その意見陳述を準備している。民法学者、NHKのOBなどの証人申請を準備している。7月には証人申請したい。
- 被告側は、裁判官の問いかけに対し、意見陳述、準備書面の予定はないと回答。
- 次回弁論期日は、7月9日14時と決定。6月末までに原告主張の補充を提出する。
II.裁判報告・交流集会
(1) 佐藤弁護団長の報告
- 裁判官が代わった。3つの裁判を併合する方向である進めると言った。合議体にするかどうかはこれから検討するということであった。
- 最高裁判決は、受信契約、したがって受信料支払いの強制を認めた。その前提としてNHKの公共性を強調した。我々の裁判はこの公共性の中身を問題にしている。
- 谷江先生(立命館大学)のアドバイスで、4条以外に、1条、3条、15条などに関連した主張を補充する。その意見陳述を準備している。このあたりで原告としての主張は終わる。
- 次は立証に進む。今何人かの原告の皆さんに、弁護団の協力を得て原告尋問の陳述書を作ってもらっている。そのほか醍醐先生の協力も得て、7月には証人申請をして、9月以降証人尋問になる。
- 公共性の中身を問う、NHKにその中身を具体的に議論させるような判決を勝ち取りたい。
- 奈良以外でもこの問題を問う同種の訴訟が起こされることを期待したい。
(2)辰巳弁護士報告
- この裁判は、公共放送の在り方を問う裁判で、これまで主に第4条を守りなさいと主張してきた。
- 放送法には、第81条で放送番組の編集について、「豊かで、かつ、良い放送番組の放送を行うこと・・・」などNHKだけが守らなければならないルールが定められている。民放より一層の公共性が求められている。81条を踏まえて、「NHKは公共放送法にふさわしい放送しているか」を新たな切り口で考えたい。
(3) 質疑応答、意見交換
- 原告Hさん
意見陳述書を書くことになっている。ついては原告どうしの意見交換をする場が欲しい。
(事務局で検討する。) - 原告Kさん
「公共放送」という時の「公共」の意味について、現行憲法での「公共」と自民党改憲草案の中での「公共」では意味が違うように思うが、どうか?
(辰巳弁護士回答)
現行憲法では、個人の権利がまずあって、国家はその個人で成り立っているとしている。
自民党の改憲草案では、国家が中心となり、国家を公益としてとらえ、国家のために個人が我慢しなければならないとしている。NHKが「公共放送」であるという場合、視聴者・国民が支払う受信料によって成り立っている「国民のための放送」、個人が知る権利を充足するための放送ということである。放送法4条も政府のためではなく、国民のための規定である - 原告Kさん
NHKの放送が「第4条に違反している」というより、「憲法違反である」といった方がしっくりくるがどうか?
(辰巳弁護士回答)
NHKを権力の側であるととらえると、そのような議論になるかもしれない。我々の裁判は、放送法4条違反によって、視聴者・国民が「知る権利(21条)」を侵害されている、また、受信料を支払って、強制的に見たくもない放送を見せられていて、財産権(29条)が侵害されているなどを主張している。
(佐藤弁護士補足)
憲法論では13条(個人の尊重、生命・自由・幸福追求の権利)も大事である。
自民党改憲草案では「公共の福祉」がすべて「公益の秩序」に変えられている。
日本の裁判所は「憲法違反」の判断をなかなかしない。我々の裁判では憲法をベースに放送法4条に光を当てていきたい。 - 原告Iさん
原告陳述書を作るにあたり、具体的な放送で放送法4条違反の事例を実証しなければならない。詳しく調査した事例を知りたい。
(司会者回答)
放送を語る会のホームページの中に、ニュース報道をモニターした報告書がある。 - 兵庫の会ANさん
土屋英雄氏著書「NHK受信料は拒否できるか」を紹介。昨年12月6日最高裁判決に関連した同氏の「マスコミ市民」誌への投稿記事「深刻化するNHK受信料問題―最高裁大法廷判決は受信料問題を解決しない」を紹介。また、同氏の主張する「スクランブル制度」を紹介。
(佐藤弁護士回答)土屋氏の著書は、今回の裁判で証拠として提出している。氏と連絡を取ろうとしたが、外国に行かれていたようで、連絡が取れていない。 - 兵庫の会MNさん
門奈直樹さん(立教大学教授)の水戸での講演を紹介。氏は、昨年12月6日年最高裁判決の問題点は、放送の「公共性とは何か」に全然触れられていないことであると解説。門奈さんはイギリスBBC、放送の「公共性」に詳しく、奈良の会も門奈さんの話を聴いて学んだらどうかとサゼッション。
「国民の知る権利を守る自由報道協会」(右翼団体)の動きを紹介。
安倍政権は規制改革推進会議で放送制度改革の議論を進めている。兵庫の会は5月20日に「放送制度改革の危機」についてシンポジウムを開催する。弁護団の安藤弁護士がパネリストとして参加します。 - 司会者から、6月13日開催予定の奈良の会の講演会・総会を紹介。講演は、鵜飼哲さん(一橋大学特任教授)の「東京オリンピックとマスメデイア」。
- 聴衆Hさん
原告ではない人も、原告団の交流会があれば参加できるように望む。NHKには心の底か怒っている。納得できるまで受信料は払わない。放送法は、戦前・戦中の大本営発表の過ちの反省からできたものである。森友問題では、他の民放と比べて、NHKの報道が最も少なかったという記事を見た。
以上
添付資料
- 20180426宮内溝川訴訟準備書面(十一)
- 20180426宮内溝川訴訟準備書面(十二)
- 20180426併合申入書3本
- 20180507弁論更新の意見陳述書
- 意見陳述書(星弁護士)
- 宮内溝川訴訟第8回期日調書